千葉地方裁判所 昭和45年(ワ)355号 判決 1973年8月28日
原告
志満津邦生
ほか二名
被告
日本道路公団
ほか二名
主文
一 被告高石正美および被告日本道路公団は各自原告志満津邦生、同志満津糸子に対し各四、五八一、九八八円、原告藤岡八重子に対し一〇、一六三、九三六円および右各金員に対する被告高石正美は昭和四五年七月一二日から、被告日本道路公団は同年同月一一日から、右各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東京海上火災保険株式会社は、原告志満津邦生および同志満津糸子に対し各二、五〇〇、〇〇〇円、原告藤岡八重子に対し五、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四八年八月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決の主文一項は無担保で仮に執行できる。
五 この判決の主文二項は、原告志満津邦生および同志満津糸子においては各一、〇〇〇、〇〇〇円、原告藤岡八重子においては二、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供して仮に執行できる。
六 被告高石正美および被告日本道路公団において原告志満津邦生および同志満津糸子に対して各四、五〇〇、〇〇〇円、原告藤岡八重子に対して九、〇〇〇、〇〇〇円、被告東京海上火災保険株式会社において原告志満津邦生および同志満津糸子に対して各二、五〇〇、〇〇〇円、原告藤岡八重子に対して五、〇〇〇、〇〇〇円の各担保を供するときは仮執行を免れることができる。
事実
第一申立て
(原告ら)
主文一ないし三項同旨の判決および仮執行の宣言。
(被告ら)
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 担保を条件とする仮執行免脱の宣言。
第二請求の原因
一 (事故の発生)
昭和四四年九月二二日午後六時五〇分頃、千葉県市川市原木一、〇〇〇番地先京葉道路上において、訴外志満津嘉輝(以下嘉輝という)は、同路上を横断しようとして、被告高石正美(以下被告高石という)運転の普通乗用車いすゞベレツト一、六〇〇cc(以下被告車という)に衝突され、頭骸内出血、顔面、大腿骨々折等により死亡した。
二 (帰責事由)
1 被告高石は、イ、被告車を所有し、自己のためこれを運行の用に供していた。ロ、(一)、事故当日被告車を運転して、京葉道路上を東京方面から千葉方面に向かつて進行中本件事故を惹起したが、(二)、右京葉道路の市川区間は農道との平面交差点多く、かかる交差点で歩行者が横断のため京葉道路上に出て来る可能性が充分考えられる故、良く前方を注視し、歩行者を発見した場合には、直ちに事故回避の措置をとりうるよう注意しなければならない義務があつたにも拘らず、右前方注視義務を怠り、慢然時速約七〇粁で運転していたため、被害者志満津嘉輝の発見が遅れた過失がある。
2イ 被告東京海上火災保険株式会社(以下被告会社という)は、昭和四三年一二月二七日、被告高石との間で、被告高石所有の被告車につき、被保険者を被告高石とし、保険金額を一〇、〇〇〇、〇〇〇円とし、保険期間を契約成立後一年間とする自動車対人賠償責任保険契約を締結した。
ロ よつて、被告会社は、被告高石が原告らに対し損害賠償債務を負担することによつて受ける損害を填補する責任がある。
ハ そこで原告らは、被告高石に対する損害賠償請求権に基づき、被告高石が被告会社に対して有する保険金請求権を民法四二三条により代位行使して、被告高石が本訴判決言渡と同時に被告会社に対して金額を確定して保険契約金の限度で請求しうべき保険金およびこれに対する判決言渡しの日の翌日から支払いずみまでの遅延損害金の支払いを求める。
3 被告日本道路公団(以下被告公団という)
イ 本件事故の発生した地点は、京葉道路のうち市川区間と呼ばれるところであり、京葉道路敷設工事のうち、第一期工事として昭和三五年四月二九日供用開始され、翌昭和三六年八月一五日自動車専用道路に指定されたものである。
右道路には、地元農民側からの希望もあり、当初約八〇箇所に及ぶ農道との平面交差点が設けられたのであるが、右交差点の大半は、京葉道路側には横断標識、横断標示などが全くなく、単にその箇所のガードレールが切つてあるだけの横断歩道である。
その後、このような道路を自動車専用道路に指定するにあたつては、事故防止のため、平面交差を立体交差に切り替えるか、或は少くとも自動車専用道路側に歩行者の通行あるべき旨の標示または標識を立て注意を促すための措置を講ずる必要があるにも拘らず、これらの措置を全く講ずることなく、単に農道側に注意して渡るべき旨の標識を立てただけで、自動車専用道路に指定した。
このような安易な指定をした場合、交通事故の増加は必定というべく、現に京葉道路市川区間においては、重傷事故だけで年間八〇件をこえ、他の区間に較べて約一・六倍の発生率を示している。
その後第二期工事(海神・幕張間、昭和四一年四月九日供用開始)および第三期工事(幕張・殿台間、同四四年四月二五日供用開始)によつて完成した京葉道路については、交差点は完全に立体化されており、平面交差点は一箇所もない。
全国においても、自動車専用道路でありながら平面交差方式になつているものは殆んど他に類例を見ない。
もつとも被告公団は、本件市川区間の事故発生率の高い事実に鑑み、逐次平面交差点を立体交差方式に改めつつあり、同四六年四月までには全面立体化すべく工事中ではあるが、このように自動車専用道路指定後に立体化工事をなすこと自体人命保護政策の立ちおくれを示すものである。
また本件京葉道路は、当初有料道路であつたが、その後充分採算もとれることとなり、無料区間に変更したところであつて、仮に当初より立体交差を試み、ために工事費用が増大したとしても、回収の見込みはあつたはずである。
それにもかかわらず、単にガードレールを切つただけという形の平面交差点を作つたことは、首都圏に直結する幹線道路の一として、数箇月後に自動車専用道路に指定される可能性があり、数年後にはこの道路を千葉市方面まで延長することが予想された以上、本件京葉道路の利用度、交通量、投下資本の回収可能性などを比較考量すれば、当然、工事施行の当初より立体化しうべきはずのところである。
よつて第一次的には、かかる状況にありながら平面交差点を設けたこと自体につき過失があるというべく、第二次的には、かかる平面交差点のある状態のまま自動車専用道路に指定したこと、第三次的には自動車専用道路に指定した後も京葉道路側に歩行者の横断あるべき旨の注意を促す方策を全く講じようとしなかつたことに過失がある。
ロ 被告公団の責任に関する根拠法条は、
(一) 国家賠償法二条一項に該当する。すなわち、
(1) 平面交差点を設置したことは、公の営造物の設置の瑕疵に、
(2) 平面交差のまま自動車専用道路に指定したことは管理の瑕疵に、
(3) 歩行者の横断あるべき旨の注意を促す方策を講じなかつたことは管理の瑕疵に、
それぞれ該当する。
(二) 仮に被告公団に国家賠償法の適用がないものとするならば、民法七一七条に該当する。すなわち右(一)の(1)の事実は土地の工作物の設置の瑕疵に、右(一)の(2)および(3)の事実は、同保存の瑕疵に該当する。
(三) 仮に右の事実がいずれも事物の客観的瑕疵というにあたらないとしても、右の如き設計、指定、管理をなしたことは被告公団の過失というべきであるから、民法七〇九条に該当する。
ハ 標示、標識については、路面に白線を引いて標示するものでもよく、或は通常の横断歩道標識(横断者の図案が描かれているもの)など、その他何らかの注意を換起すべきものを設置して管理すべきであつたもので、京葉道路と当該農道との交差点に、いかなる内容の標示、標識を施こすべきかということに関して、原告らは、原則として被告公団の自由裁量の範囲に属することを承認するが、これを全く施こさないことは右裁量の範囲をこえ、管理の瑕疵に該当するものと主張する。
ニ (一) 自動車専用道路に指定した時点においては、たしかに指定権限のある者は、法文上建設大臣である。
(二) しかし、右指定に関して被告公団は、資料提出、事情説明、意見の披瀝などをなし得たはずである。
(三) またいかなる区域を自動車専用通路となすかの区域決定ならびに区域の変更は、道路整備特別措置法六条の二第四、五号によつて、被告公団において臨機応変の措置ができるはずである。
ホ 道路の瑕疵を公示する義務
京葉道路を走行する運転者側からみれば、自動車専用道路と指定されている以上、これが人道との平面交差路を有することを通常(被告高石は通行の経験があつて知つていたが)予想できず、歩行者の通行は禁止されているものと信頼する。
このような、運転者の信頼を裏切る道路の瑕疵がある場合、それが設置上の瑕疵であれば設置者が、又管理上の瑕疵であれば管理者が、いずれも瑕疵を公示し、運転者側の注意を換起させて、事故を未然に防止しなければならない。
全国各都道府県の自動車専用道路中、本件の如き平面交差点があるのは、わずか次の二例で、他はすべて立体交差である。
平面交差点のある福島県内白棚線(日本国有鉄道自動車専用道路)および徳島県南阿波スカイラインにあつては、車道側にいずれも「交差点あり」「警音器鳴らせ」「一時止れ」「横断歩道あり」等の注意標識を設置してあり、歩行者の交通事故は発生していない。右の如き簡単な標識を立てることによつてかなり大きな効果が期待できたのである。
三 (損害)
1 嘉輝死亡による逸失利益 合計 二一、八九九、三六〇円
イ 嘉輝は、死亡当時三等陸尉として陸上自衛隊に勤務し、死亡当時の給与は月額五六、九〇〇円であつた。
ロ 陸上自衛隊内における平均昇任期間は別表1に示すとおりであり、自衛官の給与は、嘉輝死亡後毎年改定され、別表2の(一)ないし(四)となつた。
ハ 嘉輝が本件事故により死亡しなければ、現に具体的に適用になつている別表2の(一)ないし(四)によつてその給与が支給される。
ニ これらの表を基準に、右昇任期間を考慮し、平均停年五〇歳までの右嘉輝の逸失利益を計算すると、給与分は別表3、賞与分は別表4となる。
ホ 賞与については、防衛庁職員給与法の適用により毎年四箇月分が支給されるので、その額は少くとも毎年六月の給与の四箇月分を下廻ることはない。
ヘ 嘉輝が平均停年まで勤務した場合の退職金を国家公務員退職手当法により計算し、今回支給された退職金を差し引くと、その差額は、別表5のとおりである。
2 相続
イ 嘉輝は死亡当時二九歳であり、その直系卑属はなく、相続人は、父原告志満津邦生(以下原告邦生という)、母原告志満津糸子(以下原告糸子という)、妻原告藤岡(旧姓志満津)八重子(以下原告八重子という)の三名である。
ロ その相続分は、原告邦生、同糸子は各四分の一、原告八重子は二分の一である。
ハ よつて逸失利益の相続分は次のとおりになる。
(一) 原告邦生 五、四七四、八四〇円
(二) 同糸子 五、四七四、八四〇円
(三) 同八重子 一〇、九四九、六八〇円
3 原告邦生の支払つた葬儀料 合計 四七三、三六〇円
イ 葬儀社支払(棺桶代外) 二〇、〇〇〇円
ロ ドライアイス 三、二〇〇円
ハ 死体検案料 四、〇〇〇円
ニ タクシー代 五、〇〇〇円
ホ 葬儀費用(博全社に支払) 一七〇、〇〇〇円
ヘ 寿司代金 六〇、一六〇円
ト 戒名料 一〇〇、〇〇〇円
チ 告別式・布施料・読経料 八〇、〇〇〇円
リ 初七日、四九日布施料 二八、〇〇〇円
ヌ 火葬場安置所謝礼 三、〇〇〇円
4 慰藉料
イ 原告邦生 七五〇、〇〇〇円
ロ 同糸子 七五〇、〇〇〇円
ハ 同八重子 二、五〇〇、〇〇〇円
嘉輝は、本件事故により死亡したので、死亡による本人の慰藉料は三、〇〇〇、〇〇〇円に相当する。
原告八重子は、嘉輝と同四四年五月七日結婚式を挙げ同月一三日婚姻の届出をしたものであるが、その後わずか五箇月余にして夫を喪い未亡人となつてしまい、その後一時は生活意欲を失い半狂乱のような精神状態となり、余りのいたいたしさに現在でも周囲の者が再婚を勧めかねている状況である。このような精神的苦痛はとうてい被害者本人の慰藉料を相続しただけで補い切れるものではないので、原告八重子は民法七一一条に基づき固有の慰藉料として一、〇〇〇、〇〇〇円をあわせて請求する。
5 損害の填補
イ 原告らは、強制保険金三、〇〇〇、〇〇〇円を受領した。
ロ よつて原告らは、これを前記1(2)の損害金に次のとおり充当した。
(一) 原告邦生 七五〇、〇〇〇円
(二) 同糸子 七五〇、〇〇〇円
(三) 同八重子 一、五〇〇、〇〇〇円
6 弁護士費用 二、一〇〇、〇〇〇円
イ 原告らは、被告らが任意の弁済に応じないので、原告ら代理人らにその取立てを委任し、手数料および実費として四〇〇、〇〇〇円を支払い、その他謝金として第一審判決言渡しと同時に、認容額の一割にあたる一、七〇〇、〇〇〇円を連帯して支払うことを約した。
ロ その内部負担は、次のとおりである。
(一) 原告邦生 五〇二、五〇〇円
(二) 同糸子 五〇二、五〇〇円
(三) 同八重子 一、〇五〇、〇〇〇円
7 損害額の合計は次のとおりとなる。
イ 原告邦生 六、四五〇、七〇〇円
ロ 同糸子 五、九七七、三四〇円
ハ 同八重子 一二、九九九、六八〇円
四 (結論)
よつて、被告高石および被告公団に対し、右各損害金のうち、原告邦生、同糸子は、各四、五八一、九八八円、原告八重子は、一〇、一六三、九三六円、および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払いずみまで、年五分の遅延損害金の支払いを求める。
また被告会社に対しては、原告らは、右各損害金のうち、保険契約金の限度において、同被告に関する申立記載の各金額の支払いを求める。
第三答弁
(被告高石および被告会社)
一 事故の発生
請求原因一の事実を認める。
二 帰責事由
1 被告高石の責任
イ 自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条請求原因二の1のイの事実を認める。
ロ 民法七〇九条
(一) 請求原因二の1のロの(一)の事実を認める。
(二) 同二の1のロの(二)の事実中京葉道路市川区間には農道との平面交差点が多い事実は不知。但し仮に平面交差点が多いのが事実としても、京葉道路は自動車専用道路に指定され最高速度も毎時七〇粁とされた高速幹線道路であり、首都圏でも交通量の多いことでは有数の道路であつて、これを横断する歩行者は極めて少数か或は殆どないといつてよい実情にあり一般的に右道路を通行する自動車の運転者において歩行者の横断を予見することが困難な状況にある。ことに本件事故現場は、交差点の標識も標示もなく、また横断歩道その他歩行者の横断を予測させるようなものは何もなく、ただ道路側端のガードケーブルが約一・五米の幅で切つてあるというだけであつたから、偶々同所が平面交差点になつていたからといつて運転者に対し横断歩行者の存在を予見せよというのは甚だ苛酷な要求というべきである。
(二)のうち被告高石において、嘉輝の行動に対する予側ないし判断の誤りがあり、かつ減速、警笛吹鳴その他適切な避譲措置を採らなかつた等の過失があつたことは認めざるを得ない。
2 被告会社の責任
イ 請求原因二の2のイの事実を認める(但し被告会社と保険契約を締結していたのは訴外京葉いすゞモーター株式会社であり、被告高石は被保険者である。しかし被告高石が被告会社に対し保険金請求権を行使し得る地位にあることを認めるから実質的差異を生じない。
ロ 同ハのように、原告らにおいて被告高石の被告会社に対する保険金請求権を代位行使し得るとの主張を争う。
すなわち本件保険契約は、自動車保険普通約款(以下約款という)第二章および第三章を内容とし、被保険者である被告高石が本件人身事故により法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害を保険者たる被告会社が填補することを目的とする対人賠償責任保険契約であるが、その性質上、保険金請求権は被保険者と被害者である原告らとの間で損害賠償額を確定してはじめて発生するものと考えられる。
また仮に事故発生と同時に発生するとしても、その履行期は、被保険者と被害者との間で損害賠償義務が確定した後、被保険者が約款第三章第一四条に定める書類等を被告会社に提出し、被告会社がこれを受領してから三〇日後に履行期が到来するものである(約款第三章一五条)。
いずれにしても原告らの被告会社に対する本件代位請求訴訟は、将来の給付の訴の一種と考えられるが、被告会社において将来原告と被告高石との間で損害賠償額が確定した後、任意に支払いをしないという事情は全く存在しないから、必要性の要件を欠くものというべきであり、不適法として排斥されて然るべきである。
被保険者(加害者)の保険会社に対する保険金請求権は、約款上保険会社に種々の抗弁権が付与されている関係上、被保険者の行為如何によつて必ずしも被保険者が被害者に対して負う損害賠償義務全額がてん補されるとは限らないのであつて、このような場合被害者が被保険者の立場に立つことは利害の混乱を招く結果となる。
保険会社のてん補責任の有無とその範囲は、約款上ないし商慣習上、被保険者の蒙る損害賠償義務の確定を前提として判断するよう構成されており、かかる構成下に保険会社の抗弁が認められている。
しかるに債権者代位権の行使を認めると、被保険者の行為の如何が無視されて、保険会社のてん補責任の有無並びに範囲が定められることになり、自動車保険の本来の構成をくずすことになる。
共同被告、同時確定の理論をもつても右の難点をカバーすることはできない。
更に任意保険は自賠責(強制)保険の上のせ保険といわれ、約款により強制保険によつててん補される額を控除した額をてん補するものであるが、同一の自動車について任意保険と強制保険の保険会社が異ることもしばしばあり、かかる場合、債権者代位権の行使を認めても強制保険のてん補額が定まらぬ限り任意保険のてん補額は確定しない。
まして強制保険については被害者の直接請求権(自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)一六条)が認められており、加害者の保険金請求権(同法一五条)とは別個とされているところからすれば、被害者にたやすく債権者代位権の行使を認めることは、法律関係の混乱を一層深めることになる。
三 損害
1 嘉輝死亡による逸失利益
イ 請求原因三の1の事実中、嘉輝の死亡当時の職業並びに収入は不知、その余を否認する。
ロ ことに嘉輝が自衛官としても、今後二二年もの期間勤務し、その間昇任昇給を続けるとの点を全面的に争う。
嘉輝は、当時二八年であつたから、将来何時如何なる理由により転職し、又は他の傷病により死亡または失職しないとも限らないのみならず、近時自衛官の定着率が低下し、平均勤続年数が大幅に縮少しつつあることは顕著な事実であり、同人が定年まで勤続する可能性は殆んどないものと思料する。
ハ 死亡事故による逸失利益については、これを被扶養者の扶養請求権の侵害としてとらえる方法と、死者本人の逸失利益損害を相続人が相続するとして構成する方法とがあり、我国の通説判例は後者を採用している。
しかし被害者の死亡により実際に消極的財産損害を受けるのは被扶養者であつて、その範囲は相続人の範囲と必ずしも一致せず、また被扶養者が現実に損害を受ける期間にしても、死亡した被害者の就労可能期間とは必ずしも一致しないことが明らかである(被扶養者の死亡、成人、または再婚により扶養の必要性が失われる時期と、被害者の就労可能年限とは一致しないのが普通である)。のみならず後者には、死亡によつて生じる損害賠償請求権を死者本人が取得する(そうでなければ相続の対象とならない)という論理的矛盾が内在している。
それなのに後者を採用して来た最大の理由の一つは我国の賠償額水準が低かつたことにある(前者によると逸失利益は低額になる)と考えられるが、最近賠償額の高額化に伴い、後者に対する反省ないし批判が見られるようになつて来た。
欧米諸国の通説判例がすべて前者の構成をとつている事実も、右批判の正当性を裏付けるものと思料する。
従つて仮に後者を採用するとしても、これに内在する非合理性を考慮して控え目な算定がなされて然るべきである。
すなわち数年ないし一〇年程度の将来については格別、二〇年三〇年に及ぶ遠い将来についてまで逸失利益を算定することの当否は疑問である。
被害者が長期間同等の収入を挙げ得たとする蓋然性に疑問があり、相続人側においても身分ないし生活上の変化により扶養の必要性が失われる可能性が増大するからである。
このようにして、二〇年三〇年の長期にわたり昇給を見込んだ算定をすることは、後者の構成に伴う非合理性を更に強める。そのような速い将来にまで被害者が同一職場に在職した上、死亡時よりも大幅に昇給し得た地位に到達する蓋然性は通常の場合よりも一層乏しいのみならず、相続人側においては将来になればなる程次第に被扶養の必要性が減少して行くため、次第に高額になる昇給を見込んだ当該年度における賠償額との差益が拡大しいよいよ不合理な結果を招くことになる。
後者の構成を採る限り、相続人が取得するのは現在の賠償金であり、現在これを自由な用途に使用し得るものであるから、蓋然性の小さい遠い将来における収入に加えて、昇給額と要被扶養額との不合理な差益までこれにふくませることは、加害者と被害者との公平を害するものである。
定年退職時の給料額を前提として退職金を算定することは、同様に不合理である。
ニ 嘉輝の生活費は、同人の家庭内における地位並びに生活状況からして、少くとも収入額の五〇パーセント程度を控除すべきである。
ホ 中間利息の控除についてはライプニツツ方式によるべきである。
2 相続
請求原因三の2のイ、ロの事実を認める。
3 葬儀料
嘉輝の生前の地位環境を斟酌しても葬儀料としては二〇〇、〇〇〇円をこえないものと考える。その余は相当因果関係がない。
4 慰藉料
死者本人の慰藉料は理論上発生しない。
そうでないとしても原告ら主張の慰藉料額を争う。
5 損害の填補
請求原因三の5の事実を認める。
6 弁護士費用
請求原因三の6の事実は不知。
なお賠償額として相当と認められる範囲は、通常、請求認容額の一〇パーセント以内である。
(被告公団)
一 事故の発生
請求原因一の事実中、原告ら主張の日時に、主張の場所において、同路上を横断しようとした嘉輝が被告車に衝突して死亡したことを認め、その余は不知。
二 帰責事由
1 請求原因二の3の事実中、本件事故の発生した地点が京葉道路のうち市川区間と呼ばれるところであること、同区間が昭和三五年四月二九日に供用開始され、同三六年八月一五日に自動車専用道路に指定されたこと、同区間が農道と平面交差しており、京葉道路側には横断標識、横断標示がなく、その箇所のガードケーブルが切つてあること、江戸川幕張間(同四一年四月九日供用開始)、千葉西区間(同四四年四月二五日供用開始)の交差点は、すべて立体化されていることを認め、その余を争う。
2 京葉道路に平面交差点を設置したことは、公の営造物の設置の瑕疵に該当しない。
(一) 京葉道路は、京葉工業地帯の発展、大都市周辺への人口の集中などの現象によつて年々増加する自動車交通量を緩和し、常時良好な状態に保ち一般交通に支障を及ぼさないように努めるためには、既存の一級国道一四号のみでは不可能の状況になつたため同国道の迂回路を設置する必要が生じ、当時道路管理者であつた建設省は、右目的のために京葉道路の建設を計画し、工事に着手したものであり、昭和三一年四月一六日被告公団の設立によつて、以後被告公団が右工事を引き継ぎ、同三五年四月二〇日工事を完成し、同年同月二九日一級国道(現一般国道)として、供用開始されたものである。
(二) ところで道路法に規定する道路とは一般交通の用に供する道と規定され(道路法一条)、同法三条で種類を規定しているが、道路は本来人や車が自由に通行することが目的であつて、その利用形態は同一平面上で同時に通行するいわゆる混合交通を原則としている。
従つて一般国道(旧一級国道)として設置された京葉道路についても、広く既存の道路、農道、私道、村道等との平面交差点を設置したとしても、混合交通を原則とする道路法の下においては適法であり、これをもつて設置の瑕疵に該当するといえないことは明らかである。
(三) 平面交差点設置当時の京葉道路は、国道四号線(日光街道)、同六号線(水戸街道)、同一七号線(中仙道)、同二〇号線(甲州街道)等となんら異ならず、一般国道一四号線(千葉街道)の迂回路として設置されたものであつて、前記の各国道が現在においても県道、市町村道または農道等とその大部分が平面交差である如く、千葉街道の迂回路として設置された京葉道路においても、既存の県道、市町村道または農道等と平面交差をしていたのであつて、このこと自体は、京葉道路が一般国道(道路法三条二号)である限り、混合交通を原則とする道路法のもとにおいては適法であつて、なんらの瑕疵も存しない。
(四) また自動車専用道路に指定された後本件農道と平面交差のままとしておいた点についても、自動車専用道路と交差する道路は、すべて立体交差としなければならないものではなく本件農道の如くその交通量が少ない場合(道路法四八条の三但書)や、当該道路と立体交差とすることによつて増加する工事の費用がこれによつて生ずる利益を著しくこえる場合(道路法施行令三五条三号)には、平面交差とすることが認められており、自動車専用道路指定後本件事故発生当時まで農道との交差を平面交差としていたとしても、それが道路の管理の瑕疵を構成するものではない。
3 自動車専用道路の指定について
(一) 被告公団は、右の指定をしていない。
京葉道路は、国道一四号線の迂回路として設置された道路法三条二号に定める一般国道であつて(道路法五条、一般国道の路線を指定する政令=昭和四〇年三月二九日政令五八号別表)、しかも右道路は、道路法一三条一項の政令指定区間であつて、道路管理者は建設大臣とされている(一般国道の指定区間を指定する政令=昭和三三年六月二日政令第一六四号。この政令に基づく指定により、国道一四号線中いわゆる京葉道路部分は、指定区間とされ、建設大臣が道路管理者となり、一方、東京都江戸川区東小松川四丁目から千葉市幕張町に至るまでのいわゆる千葉街道と称される旧国道部分は、右指定区間から除外され、東京都知事または千葉県知事が、それぞれ道路管理者となつている)。
ところで被告公団は、道路整備特別措置法四条の規定により、本件道路の維持、修繕等を行つているのであるが、この場合には同法七条一項の規定によつて被告公団が道路管理者たる建設大臣に代つてその権限のうち同条各号に定めるものを行うことになつているが、右の各号のうちには道路法四八条の二の規定に基づく自動車専用道路の指定権限はふくまれていない。
従つて被告公団は、本件道路を自動車専用道路に指定する権限をもたないことは明らかである。
被告公団は、右指定をしたことはないから、右指定の責任はない。
(二) また被告公団が建設大臣に対して意見具申等をしなかつたからといつて、それが違法となる筋合のものではなく、また道路整備特別措置法六条の二の規定は「高速自動車国道」に関するものであつて、一般国道である京葉道路には適用がない。
(三) 仮に右指定の適否について被告公団に責任が生ずる場合があるとしても、京葉道路の自動車専用道路指定は、以下に述べるとおり合理的理由により適法になされたものであつて、道路管理の瑕疵に該当せず、なんら過失はない。
(1) 京葉道路における交通量は、供用開始直後は一万台前後であつたが、昭和三六年五月頃には一万数千台に達し特に原動機付自転車が増加した。
また一級国道一四号(東京都江戸川区東小松川から千葉県船橋市海神までの京葉道路部分のいわゆる迂回路部分)の自動車交通量も一日当り一万数千台に達した。
(2) このような交通事情から、このまま放置することは京葉道路が迂回路と同じ状態となり、車両の能率的な運行に支障をきたす恐れがあるので、京葉道路を自動車専用道路に指定し、よつて京葉工業地帯の発展に伴い増加する自動車交通の円滑化を図ることとされ、昭和三六年八月一五日建設大臣によつて、京葉道路中東京都江戸川区一之江町一丁目二九番の八から千葉県市川市大和田字宮の後六番を経て同県船橋市海神町三丁目二一四番地間が自動車専用道路に指定された。
(3) 自動車専用道路が、原則として、立体交差方式とすることとされているのは、交通事故防止を第一義的な目的とするものではなく、当該道路を横断する人や車に対する信号待ち、一時停止、徐行等から生ずる車両の運行の不能率を解消し、もつて自動車の円滑な交通を図るためである。
(4) 本件道路が平面交差のまま自動車専用道路に指定された理由は、交差道路(農道)の交通量がいずれも少ないこと(道路法四八条の三但書)、京葉道路建設工事に伴う用地買収交渉に際し地元住民からの強い要望によつて農耕機の横断などのため京葉道路に農道の開口個所を設けることが協議されて、多数の農道の開口個所が設けられた経緯からして、これら農道を利用する地域住民の既得権と利益を尊重する必要のあつたこと、京葉道路と交差する既存農道が約四〇個所あり、これと立体交差とすることによつて増加する工事の費用がこれによつて生ずる利益を著しくこえる場合(道路法施行令三五条三号)に該当するためであつて適法というべく、右指定は道路管理の瑕疵を構成するものではない。
4 歩行者があることの注意を促す方策
(一) 道路標識の設置については、道路管理者は、道路の構造の保全または交通の円滑を図るため、必要な場所に道路標識および区画線を設けなければならない(道路法四五条)とされ、また、公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要があると認めるときは、道路標識又は道路標示を設置することができる(道路交通法九条一項)と規定され、道路における危険防止、交通安全のための道路標識等の設置は、公安委員会の職責とされている。また道路標識等の種類、様式、設置場所その他道路標識等について必要な事項は、総理府令、建設省令で定めることとされ、道路標識、区画線および道路標示に関する命令が制定されている。
道路標識の性格からして、その種類、様式、設置場所は統一的画一的に定め、これを公示して運転者等に知らせる必要があるのであつて、道路管理者が勝手に道路標識を設置することはゆるされないのである。本件道路には所要の道路標識等は設置されているのであつてなんら瑕疵はなく、原告の主張は失当である。
(二) 横断歩道を設け、その標識等を設置する権限は、公安委員会にあり、被告公団にはない(道路交通法九条、一二条)。
のみならず、右の設置権者以外は何人も道路標識またはこれらに類似する工作物または物件を設置することが禁止されており(同法七六条一項)、これに違反した者には刑罰をもつて臨んでいる(同法一一八条一項四号)。
(三) なお交差点ありの警戒標識は、道路管理者が交通の安全と円滑を図るため、必要な場所に設けることとなつているが(道路標識、区画線および道路標示に関する命令(昭和三五年一二月一七日号外総理府・建設省令第三号)四条一項二号)、当時の京葉道路には約八・九粁の間に約四〇箇所の農道等との交差点があり、本件農道の如く人通りの極めて少ないものをふくめ、すべての交差個所に交差点ありの標識を接近した距離にしかも連続して設置することは警戒標識本来の機能を喪失させるばかりでなく、自動車専用道路としての機能を阻害し、ひいては交通の安全と円滑に支障をきたすこととなり、重大な自動車事故の原因ともなるので相当でない。
5 被告公団は、本件事故現場の農道側に「危険、自動車専用道路、横断者は左と右をよくみて通行して下さい、日本道路公団」との標識、「横断注意」の標識各一本を設置しているのであつて、歩行者の安全対策については可能なかぎり十分注意義務を尽しているのであつて何らの瑕疵も存しない。
自動車専用道路は、一般道路と異なり、自動車の運行を優先させる必要があるので、車道側に二、三百米おきに歩行者のある旨の標識を出すことは、自動車専用道路としての機能を失うばかりか追突等の大事故が発生する危険がある。
本件道路においては、横断歩行者は、その絶対数が少ない上、みだりに立ち入ることを禁止されているのであるから、横断にあたり特に注意して横断すべき義務があるのは当然であつて、この趣旨を前記標識をもつて示し、事故防止を企図した被告公団の措置は合理的であつて、この点からも被告公団には道路管理の瑕疵或は過失はない。
6 自動車専用道路においては、歩行者は、道路の本来的な通行方法、つまり縦の通行は禁止されるが、道路の横断は、それがみだりに自動車専用道路に立ち入ることにならない限り許される(道路法四八条の五)。
また平面交差が許されることは、同法四八条の三但書の規定からも明らかであつて、自動車専用道路に歩行者が進入し得るような入口を設けたことは、被告公団の過失を構成するものではない。
7 自動車専用道路の制度は、昭和三四年三月の道路法の改正(法律第六六号)で初めて導入された制度であつて、被告公団が本道路建設を引き継いだのは同三一年四月一六日であるから、京葉道路の設計時にも、着工時にも存在しなかつた制度である。
従つて建設当初より将来自動車専用道路に指定する計画はなかつた。
8 京葉道路が昭和三五年四月二九日供用開始されて以来今日まで無料開放された事実は存しない。
また被告公団が京葉道路市川区間において逐年平面交差方式を立体交差方式に改めつつある工事は、京葉工業地帯の急激な発展によつて、この区間の交通が輻輳する見込みとなつたため、従来の四車線(幅一六米)を六車線(幅三二米)に拡幅する目的で行つているもので、その際の付随的措置としての立体交差の工事が行われたものである。
三 (損害)
請求原因三の各事実は不知。
第四被告らの主張
(被告高石)
一 事故の発生状況
1 本件事故現場は、ほゞ東西に通ずる京葉道路の原木インターチエンジ東方約一五〇米の地点で、これとほゞ直角に接する農道との交差部分である。
京葉道路は、幅員約一四米、センターラインによつて上下線の区別があり、両線とも更に二車線(幅員各約三・五米)に区分されたコンクリート舗装路である。
農道は、幅員約一・四米の非舗装路である。
京葉道路の両側端には高さ約一米のガードケーブルが設置されているが、右農道と接する部分においてこれが約一・五米の幅で切られていた。
なお付近は、人家の点在する水田地帯で、京葉道路は平坦な直線路となつており、昼間においては極めて見通しのよいところである。
しかし道路照明の設備がないため夜間は極めて暗い状態にある。
2 京葉道路は、自動車専用道路に指定され、これに伴う各種の規制(道路法四八条の五、道路交通法七五条の六、八など)が存在するほか、事故現場付近は千葉県公安委員会によつて最高速度が毎時七〇粁と指定されていた。
3 被告高石は被告車を運転し、京葉道路下り車線上を東進中事故現場に差しかかつた。
当時は、すでに日が暮れた上、霧雨が降つており、周囲は暗く、自動車は、みな前照灯を点灯して走行していた。
降雨中ではあつたが、路面は余り濡れていなかつた。
上り車線の交通量は、非常に多かつたが、下り車線は比較的空いており、被告車の先行車はかなり遠方にあり、後続車はあつたが、その数は多くない状況であつた。
被告車は、前照灯を下向きに点灯し、ワイパーを作動しつつ、下り車線の第一通行区分帯(左側車線)を時速約六五粁で進行していた。
4 被告車が事故現場の約七五米手前に差しかかつたとき、被告高石は、道路左側端に一人の男(嘉輝)が立つているのを発見した。被告車のライトは届かなかつたが、切れ目なく対向して来る上り車線上の自動車のライトによつてその姿が見えたものである。
嘉輝は、左手に鞄を抱え、顔は被告車の方に向けていたが、身体は南に向けており、道路を横断しようとして自動車の途切れるのを待つているような様子であつた。
被告高石は、京葉道路が自動車専用道路であり、歩行者の出入や通行が禁じられていることを知つていたので、まさか歩行者が自動車の進路を妨げるような横断はしないであろうと考え、そのまま自車を進行させ、時間にして約一・五秒、距離にして約二五米走行し約五〇米の距離に迫つたところ、突然嘉輝がそろそろと道路中央へ動き出したのを認めた。
しかしこの時点においても嘉輝は、被告車の方に顔を向けており、被告車の動静を窺つているように見えたので、被告高石は、嘉輝が当然被告車に進路を譲り、被告車が通過した後で道路を横断するであろうし、また嘉輝の動きがおそいので、そのまま第一通行区分帯上を直進した場合には衝突の危険があるものと判断し、ハンドルを右に切つて被告車を第二通行区分帯(右側車線)上に移行させ、嘉輝の前面を通過しようとした。
5 ところが嘉輝は、被告車がこのように進路を変更し、第二通行区分帯上を接近しつつあるのにも拘らず、横断を思いとどまらず、第一通行区分帯と第二通行区分帯の境界付近までそろそろと進出した後突然急ぎ足となり第二通行区分帯上を横断し始めた後、意外にも嘉輝が第二通行区分帯の中央ややセンターライン寄りの地点で立ち止まつてしまつたため、被告高石は衝突の危険を感じ、とつさに急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の前部右側を嘉輝の身体に激突させ、一旦これをボンネツトの上に跳ね上げ、フロントガラスに衝突させた後、その衝撃によつて右前方対向車線上に跳ね飛ばしてしまつた。
衝突地点は、第二通行区分帯上でセンターラインから約一米北側のところであつた。
二 事故の原因
1 右事故の発生状況からすると、被告高石において、嘉輝の行動に対する予測ないし判断の誤りがあり、かつ減速、警笛吹鳴その他適切な避譲措置を採らなかつたなどの過失がある。
しかしながら、被告高石の過失は、嘉輝の過失および被告公団の過失に比較すると、甚だ小さい。
2 京葉道路は、自動車専用道路であつて自動車以外の車両並びに歩行者の通行は禁止され、最高速度も毎時七〇粁と指定された高速幹線道路であり、首都圏でも交通量の多いことでは有数の存在であるから、これを横断する歩行者は殆んどないといつてよい実情にあり(現に被告高石は事故当時まで一〇〇回以上京葉道路を通行した経験があるが、歩行者の横断をみたのは本件が初めてである)、一般的には右道路を通行する自動車の運転者において歩行者の横断を予見することは困難な状況にある。
ことに本件事故現場は、交差点の標識も標示もなく、また横断歩道その他歩行者の横断を予測させるような何ものもなく、ただ道路側端のガードケーブルが約一・五米の幅で切つてあつたというに過ぎず、これとても二、三十米以上離れると殆んど他の個所と区分し得なくなるという状態にあり、具体的にも横断歩行者の存在を予見することは不可能に近い状況であつた。
従つて一般道路におけるように、常に歩行者との遭遇による危険の発生を予測し、歩行者との事故を未然に防止するための注意義務は大幅に軽減されていると考えられる。
本件において、被告高石が事故現場に差しかかる際、横断歩行者の存在を予見し、予め減速その他事故の防止策を採らなかつたことは決して過失とはいい得ない。
3 被告高石が約七五米左前方に嘉輝を発見した際の判断並びに措置について。
京葉道路は、自動車専用道路であつて、一般に歩行者の出入又は通行(当然横断もふくまれると解する)は禁じられている上、現場付近の道路状況並びに交通の実情からして自動車の通行に強い優先通行権が存在する。
従つて、自動車運転者としては、恰も青信号で通行する場合と同様に横断歩行者に対して常に進路を避譲することを期待して走行し得るものと考えられる。
一方歩行者としては、例外的ないし脱法的に、右道路を横断する場合には、通常の場合とは異なり、自動車の進路を妨げることがないよう特段の注意を払う必要があるというべきであるから、通行する自動車の位置、距離、速度等に注目し、自動車に対して減速、転把、その他の避譲措置を採らせることのないような距離においていち早く横断するか或は自動車の通過をまつて横断すべきである。ことに近年高速自動車道路において急制動ないし急転把が追突、横転等悲惨な大事故をしきりに誘発していることは周知の事実であつて、歩行者とすれば危険な横断が自己の生命身体のみならず、自動車に対しても強い危険を及ぼすことを常に銘記すべきものであつた。
この意味において被告高石が嘉輝に対し自車に進路を譲つてくれるものと期待しそのまま自車を進行させたことはやむをえない自然な態度である。まして嘉輝は終始被告車の方に顔を向けていたから、同被告の右期待は無理からぬものと考えられる。
4 被告高石が約五〇米の距離において嘉輝の横断開始を発見した後の判断並びに措置について。
被告車が第一通行区分帯上を約五〇米の地点に追つたとき嘉輝は被告車の動静を窺うような様子でそろそろと道路中央の方へ横断を開始し、これを認めた被告高石はハンドルを右に切つたのであるが、これは運転者としてやむを得ない措置であつたと考える。
一般に、車両の流れが途切れるのを待つて道路を横断しようとしている歩行者が、車両の来る方を窺いながら、そろそろと通路左側端から通路中央へ出てくることはよく見受けられるところであるが、横断歩道のように歩行者に優先通行権がある場合は別として、運転者としては減速ないし徐行して歩行者に進路を譲るよりもハンドルを右に切つて歩行者よりも先に横断地点を通過しようとする傾向がある。
また一方歩行者においても車両の方が減速徐行してくれない場合には立ち止まるか後ろに戻るかして車両に進路を譲つている実情にある。
ことに本件のように自動車に優先通行権があるところでは、運転者としては減速徐行を行うことに強い抵抗感を抱くものであり、また歩行者に対して自車に進路を譲つてくれるものと信じてハンドルを右に切り(そうしないと歩行者に衝突する)歩行者の右を通過しようとするのは自然の心理であつて、このことをもつて運転者を非難することはできない。
仮に本件の場合嘉輝がそろそろというのではなく素早く横断を開始していたとすれば、被告車と同人との距離からして安全に横断を完了し得たであろうし、被告高石の方においてもハンドルを右に切ることなく、そのまま被告車を直進させ嘉輝の左を通過し得たものと推測される。
この意味において嘉輝が横断を開始した際素早い行動をとらなかつたことが本件事故の最初の原因となつているものと考えられる(最大の原因は、交通頻繁にして危険極まりない自動車専用道路を歩行横断しようとしたことにある)。
次いで嘉輝は、第一通行区分帯と第二通行区分帯の境界付近にまでそろそろと進出した後突然如何なる理由からか急にいそぎ足になり、第二通行区分帯上を接近しつつある被告車の進路前方を横断しようとし、第二通行区分帯中央付近で立ち止まつてしまつた訳であるが、このときにはすでに被告車の速度と、距離から、被告高石のみならず、如何なる運転者といえども衝突を回避することが極めて困難な状況にあつた。
右のような嘉輝の急な行動の変化が一般に運転者の予測と判断を誤らせることは明らかであり、被告高石において適切有効な回避措置を採り得なかつたとしても、強く非難することは相当でない。
5 一方嘉輝は、自動車専用道路として歩行者の通行が禁じられている本件道路に進入し(尤も歩行者が進入し得るような入口を設けたのは被告公団の過失である)た上、本件道路においては多数の車両が高速度で走行しており、かつ運転者において歩行者の存在を予見できないような状況にあるのであるから、これを横断するにあたつては車両の流れが完全に途切れるのを待つなど車両の通行を妨げないよう細心の注意を払つて横断を開始すべきであるのに、恰も普通道路におけるが如く漫然車両側の避譲を期待したものか時速約六五粁で約五〇米(走行時間にすると僅か三秒位)の距離に追つている被告車の進路前方を敢えて横断しようとした。
しかも緩慢ないし躊躇したような行動をとつたため被告高石の判断を誤らせ、ハンドルを右に切るのを余儀なくさせ、更に突然急ぎ足となつて被告車の変更された進路前方に進出し、かつ進路のほゞ中央で立ち止まつてしまうという(恐らく被告車の対向車線の車の流れに切れ目がなかつたためと思われる。対向車線に安全に進入する余地がないのに横断を開始したことも重大な不注意である。また中心線付近で対向車線の車両が途切れるのを待とうとすることもまた危険である)運転者に予期し得ない意外な行動に出たため本件事故に遭遇したものである。
結局嘉輝の本件道路横断は、一般的にも違法かつ過失があり、具体的な横断のしかたにも重大な過失があつた。
三 過失相殺
嘉輝の右過失を、損害額を定めるにあたり斟酌すべきであり、その割合は、横断禁止場所の横断であるから、少くとも八〇パーセントの責任を負うべきである。
(被告公団)
一 本件京葉道路は、昭和三六年八月一五日自動車専用道路に指定されるまでは人も車も同一路面を並進するいわゆる混合交通であつたが、指定日以後は自動車以外の方法による通行(道路本来の縦の通行)は禁止されるが(道路法四八条の五第一項)、道路管理や交通取締の如く自動車専用道路に立ち入る正当な権限を有する場合、または自動車専用道路と他の一般道路が平面交差をしている場合に一般通行人が自動車専用道路を横断する如く、道路管理者が横断口を設けてその利用を認容している場合には、横断者が横断の目的をもつて自動車専用道路に立ち入ることは許容される。
嘉輝が、本件道路に横断の目的をもつて立ち入つたものであるかぎりみだりに立ち入つたことにならない。
但し、自動車専用道路に立ち入るのであるから、被告公団が本件道路の横断口に標識を設置して注意しているとおり、左右の安全を十分確認して横断する義務がある。
二 嘉輝は、本件農道との交差点を横断して通勤していたもので朝晩通行していたのであるから、京葉道路の交通状況は十分知つていたはずである。
一方被告高石は、本件京葉道路を前後一〇〇回にわたり往復していたのであるから、京葉道路の道路事情はドライバーとして十分知悉していたのである。
本件事故は、被告高石の安全運転義務違反と嘉輝の横断の際の安全確認不十分によつて発生したものである。
被告高石は、被告車を運転し京葉道路を時速約六〇粁で進行し、本件事故現場にさしかかつた際、嘉輝が本件横断口に右手でカバンをかかえ、顔を加害者の方に向け横断するような姿勢で立つているのを約七四米前方の地点で認めたのであるから、直ちに適宜減速し嘉輝の動静に十分注意して、事故の発生を未然に防止する業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、嘉輝の前もしくは後を通過できるものと軽信してそのまま進行した過失により、横断中の被害者に約一二米に接近して危険を感じ急制動をかけたが及ばず、本件衝突事故を発生させたものである。
被告高石は、約七四米前方でまさに横断しようとしている嘉輝を発見しているのであるから、「歩行者横断あり」もしくは「交差点あり」の標識を設置しなかつたことと本件事故とは関係がない。これらの標識は、横断する歩行者があるかも知れないので運転者の注意を換起するものであるが、本件の場合は被害者を現認しているからである。
三 嘉輝には、本件自動車専用道路を横断する際、十分左右の安全を確認して横断する義務があるにもかかわらず、これを十分尽さずに横断しようとした過失がある。
第五被告らの主張に対する原告らの認否
嘉輝に過失があつた旨の被告らの主張を争う。
第六証拠〔略〕
理由
一 (事故の発生)
昭和四四年九月二二日午後六時五〇分頃、千葉県市川市原木一、〇〇〇番地先京葉道路上において、同路上を横断しようとした嘉輝が被告車に衝突して死亡したことは、当事者間に争いがない。
二 (帰責事由)
1 被告高石が被告車を所有し、自己のためこれを運行の用に供していたことは同被告の自白するところである。従つて被告高石は、自賠法三条により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償すべき責任がある。
2 被告会社が訴外京葉いすゞモーター株式会社との間で被告高石を被保険者とする原告主張の如き保険契約を締結しており、被告高石が被告会社に対して、原告主張のとおり、保険金請求権を行使し得る地位にあることは、被告会社の自認するところである。従つて被告会社は、保険契約上、被告高石に対し、被告高石が前記損害賠償責任を負うことによつて受ける損害を填補する責任があるところ、被告高石の債権者である原告らが民法四二三条により右保険金請求権を代位行使するというのであるから、原告らに対し保険金額の範囲内で右損害額相当の保険金を支払う義務がある。
(被告会社の主張について)
イ 保険金請求権を行使するためには、その前提として被保険者(加害者)と被害者との間で賠償額の確定することが必要であるが、確定してはじめて保険金請求権が発生するということはできない。保険関係(加害者である被保険者と保険者との関係)の責任が約款二章一条のような文言を通じて責任関係(被害者と加害者との間の関係)における責任の存否に依存している以上、保険関係の責任も抽象的には自動車事故の発生と同時に発生すると見ないわけにはいかないから、右確定をもつて発生要件と解することはできないからである。
ロ 被保険者が保険会社に対して有する保険金請求権の履行期は、保険関係より責任関係が先に確定する通常の場合は、示談の成立ないし判決の確定した後約款三章一五条の要件を充足したとき初めて到来するものと解すべきであるが、右約款の条項は、保険会社が責任関係における損害額具体化の手続過程に関与しない通常の事態を考慮して、保険会社に対し、具体化した損害額の内容を検討し、保険金支払を準備するための猶予期間を与えるため設けられたものと解すべきであるから、保険会社が当事者として責任関係の手続に関与し得る併合訴訟の場合においては、右条項の存在を考慮に入れる必要はなく、裁判所による責任関係の判断が確定すると同時に、すなわち判決確定の日に、保険関係における履行期が到来すると解するのが相当であり、判決による保険関係の判断が責任関係の判断より先に確定することはないと解すべきである以上、保険関係の請求が将来の給付の訴として成立することはない。従つて民事訴訟法二二六条の必要性を欠き不適法であるという被告会社の主張は、理由がない。
ハ 債権者代位権が行使された場合、相手方(被告会社)は、債務者(被告高石)に対して有するすべての抗弁権を債権者(原告ら)に対し行使することができるから、利害の混乱を招くとか、被保険者の行為の如何が無視されるという被告会社の主張は理由がない。
ニ 自賠責保険金がすでに支払われていることは弁論の全趣旨から明らかであつて、右保険金が定まつていないという被告の主張は理由がない。
ホ 〔証拠略〕によると、現行保険料率は、被害者が加害者の保険金請求権を代位行使して直接保険会社に対して保険金を訴求する場合に保険会社が支出すべき経費を考慮に入れないで、定められていることが認められるけれども、そのため、右代位行使が許されないということはできない。
3イ 被告公団が本件京葉道路を管理していること、すなわち、被告公団は、昭和三一年四月一六日に設立されてから、すでに建設省が計画し工事に着手していた京葉道路の建設工事を引き継ぎ、同三五年四月二〇日右工事を完成し、同三五年四月二九日これを一級国道として供用開始し、道路管理者である建設大臣に代わつて本件京葉道路の維持、修繕等を行い管理していること、本件京葉道路が同三六年八月一五日に自動車専用道路に指定された後も管理を続け料金を徴収していることは、被告公団の自認するところである。
ロ 本件事故現場は、右のとおり自動車専用道路に指定されている京葉道路と、嘉輝の通行していた本件農道とが平面交差していること、ここに道路管理者が横断口を設けてその利用を認容しており、嘉輝や一般通行人が横断の目的をもつて京葉道路に立ち入ることは許容されていたこと、しかるに京葉道路側には自動車運転者に対し横断標識、横断標示など歩行者の横断あるべきことを示し注意を促すための措置は全く講じられていなかつたこと、以上の事実は被告公団の自認しているところであり、〔証拠略〕によると、右横断口には農道から進入する箇所のガードケーブルが切つてあること、右書証と被告公団主張のとおりの写真であること〔証拠略〕によると、農道側には「横断注意」、「危険、自動車専用道路、横断者は右と左をよくみて通行して下さい、日本道路公団」の二本の標識が設置してあることが認められるが、これを京葉道路を通行する車両の運転者が確認することは、〔証拠略〕によると、本件京葉道路は通路標識により最高速度を毎時七〇粁と指定されていたことが認められる。以上の事実に、〔証拠略〕を総合すると、公の営造物である本件京葉道路には営造物が本来備えるべき安全性が欠けており、危険な瑕疵があつたものといわなければならない。右のように瑕疵のあることは、被告公団の道路管理に瑕疵があつたことを推定させる。〔証拠略〕によると、自動車専用道路白棚線には専用道路を通行する運転者に対し注意を換起する道路標識、道路標示が設置されていない平面交差点が五八箇所あることが認められるけれども、この事実によつて右推定を覆えすことはできず、他に右推定を覆えすに足る主張立証はない。
ハ 〔証拠略〕を総合すると、被告高石は、嘉輝の横断開始を発見してすぐ減速徐行しさえすれば、衝突地点へ行くまでに被告車を停止させ得る余裕があつたのに、嘉輝の前(被告車から見て右)を通り過ぎようと考え、右に進路を変更し、減速しなかつたため本件事故を惹起したのであるが、減速せずに進行したのは嘉輝を追い越せると判断したことと、嘉輝が横断しないと思つたこととの両方の理由によるものであることが認められ、嘉輝が横断せず被告車の進行を妨げないだろうと被告高石が思つたのは、本件京葉道路が自動車専用道路であり、同道路通行車両の運転者に対し歩行者の横断あるべき旨を表示し、これに対する注意を促す措置が全く採られていなかつたことに一因があつたのであろうことはたやすく推認することができ、本件農道と京葉道路との交差点が立体交差になつていたならば本件事故が発生しなかつたであろうことは明白であるから、前記瑕疵と本件事故の発生との間に因果関係のあることを認めることができる。
ニ そうだとすると、被告公団は、営造物法人たる公共団体として、国家賠償法二条一項により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償すべき責任がある。
三 (過失相殺)
1 被告高石は、嘉輝が横断を開始したとき素早い行動を採らなかつたと主張し、被告公団は、嘉輝が左右の安全を十分確認せずに横断しようとしたと主張する。
しかし〔証拠略〕によると、被告車は、先行車と約一五〇米の距離をおき時速約六〇ないし六五粁で第一通行区分帯を直進していたこと、第一通行区分帯の幅員は約三・七五米であること、嘉輝が普通の速度で歩いて横断を開始したのは被告車との距離約五〇米、時間にして約三秒の余裕があつたこと、嘉輝は終始被告車の方を見ていたことが認められる。従つて被告車が直進する限り、嘉輝は、第一通行区分帯を被告車が来る前に通過し終つていたであろうこと明らかであるから、右被告らの主張するような過失は存しない。
2 嘉輝が第一通行区分帯と第二通行区分帯の境界付近において急にいそぎ足になり、第二通行区分帯の中央付近で立ち止まるという急な行動の変化があつたと被告高石は主張するが、前掲各証拠によると、嘉輝は終始被告車の方を見ていたこと、被告車が第一通行区分帯から第二通行区分帯に進路を変更したことが認められるから、いそぎ足になつたのは、被告車が進路を変更して嘉輝の進行方向に向かつて(嘉輝からすれば、自分を目がけて)迫つて来たためと推認できるから、いそぎ足になつたことに過失があつたとは認められない。
また前掲各証拠によると、衝突地点は、第二通行区分帯の幅員約三・七五米のうち被告車から見て左から二・五米も対向車線に寄つたところであり、立ち止まつた地点で衝突したことが認められるから、嘉輝は第二通行区分帯の中央で立ち止まつたわけではなく、被告高石の供述によると、同被告は、対向車線に自動車が多いことを見て知つており、そのため嘉輝が横断できずに立ち止まつたものと考えたというのであるから、同被告にとつて理解できない不自然な行動ということはできず、却つて当然予想される行動であり、立ち止まつたことに過失はない。
3 被告高石は、嘉輝が横断禁止場所を横断したと主張するが、本件事故現場が横断禁止場所であつたことを認めるに足る証拠はない。
4 前掲各証拠によると、本件事故は、被告高石が嘉輝の横断開始後にとつた措置の不適当なこと、特に進路を右に変更して嘉輝の進行方向前方(被告車から見て右方)を無理に通過しようとした過失によつて発生したものであることが明らかである。
5 嘉輝の横断が横断歩道外の横断であつたことは前記認定のような横断道路の形式上肯認せざるを得ないが、実質的には横断歩道同様に横断を許されていたこと前述のとおりであり、被告高石の過失の重大さおよび被告公団の管理の瑕疵に対比すると、これを過失相殺をなすべき事情とみることは相当でなく、他に過失相殺すべき事情を認めるに足る証拠はない。
四 (損害)
1 嘉輝の逸失利益 二一、八九九、三六〇円
原本の存在および〔証拠略〕を総合すると、請求原因三の1の各事実および相当程度の蓋然性を認めることができる。
2 相続
請求原因三の2のイの事実は、原告と右被告両名との間においては争いがなく、被告公団との間においては原告邦生の供述および弁護の全趣旨によつて認めることができ、従つて同三の2のロ、ハの事実は民法九〇〇条二、四号、および計算上明らかである。
3 葬儀料 三〇〇、〇〇〇円
〔証拠略〕によると、同原告は、嘉輝の葬儀関係費用として、請求原因三の3のとおり合計四七三、三六〇円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はないけれども、右支出のうち三〇〇、〇〇〇円が本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。
4 慰藉料
原告邦生、同糸子が嘉輝の父母であり、原告八重子が嘉輝の妻であつたことは、前述のとおりである。
原告邦生の供述によると、原告八重子はその後他に結婚したことが認められる。
嘉輝死亡による本人の慰藉料を相続したものとしての請求の中には原告らの固有の慰藉料の請求をもふくんでいて、原告八重子の受けた精神的苦痛を慰藉すべき固有の慰藉料としては右相続分のみでは足りないというのが原告らの主張と解されるけれども、そのいずれであつても、被告らに対して賠償させるべき慰藉料としては、本件事故によつて子を失つた原告邦生および同糸子については請求どおり各七五〇、〇〇〇円、夫を失つた原告八重に子ついては請求のうち一、五〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
5 損害の填補
請求原因三の5のイ、ロの事実は、原告と被告高石および被告会社との間においては争いがなく、被告公団との間においては弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。
6 弁護士費用
以上のとおり、原告邦生は逸失利益の相続分五、四七四、八四〇円、葬儀料三〇〇、〇〇〇円および慰藉料七五〇、〇〇〇円の合計六、五二四、八四〇円から填補分七五〇、〇〇〇円を差し引いた五、七七四、八四〇円、原告糸子は逸失利益の相続分五、四七四、八四〇円および慰藉料七五〇、〇〇〇円の合計六、二二四、八四〇円から填補分七五〇、〇〇〇円を差し引いた五、四七四、八四〇円、原告八重子は逸失利益の相続分一〇、九四九、六八〇円および慰藉料一、五〇〇、〇〇〇円の合計一二、四四九、六八〇円から填補分一、五〇〇、〇〇〇円を差し引いた一〇、九四九、六八〇円の各損害賠償請求権をそれぞれ有するところ、被告らがこれを任意に支払わないことは弁論の全趣旨から明らかであり、原告らがその取立てを原告ら代理人らに委任したことは記録上明らかであり、原告邦生の供述によると、手数料および実費として四〇〇、〇〇〇円を支払い成功報酬として判決の結果一割を支払う約束をしたことを認めることができる。
前記請求認容額、本件訴訟の経緯およびその難易その他本件にあらわれた一切の事情を斟酌し、弁護士費用として、原告邦生および同糸子に対し各五〇〇、〇〇〇円、原告八重子に対し一、〇〇〇、〇〇〇円を、本件事故と相当因果関係にある損害として被告らに賠償させるのを相当と認める。
7 損害額の合計は、次のとおりとなる。
イ 原告邦生 六、二七四、八四〇円
ロ 同糸子 五、九七四、八四〇円
ハ 同八重子 一一、九四九、六八〇円
五 (結論)
以上の理由により被告高石および被告公団は、各自、右各損害金のうち原告邦生および同糸子に対し各四、五八一、九八八円、原告八重子に対し一〇、一六三、九三六円および右各金員に対する事故発生の日以後の日である本件訴状副本が送達された日の翌日であること記録上明らかな被告高石は昭和四五年七月一二日から、被告公団は同年同月一一日から、各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告会社は、右損害金のうち原告邦生および同糸子に対し各二、五〇〇、〇〇〇円、原告八重子に対し五、〇〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する本判決言渡しの日の翌日である昭和四八年八月二九日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よつて、原告らの本訴請求は正当と認められるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、仮執行およびその免脱の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 木村輝武)
別表第1 自衛官平均昇任期間表
昇進予定年令 最低号俸
3等陸尉から2等陸尉へ 2年6月 31才 8号俸
但し志満津嘉輝は3等陸尉昇任後
既に1年4カ月を経過しており9号俸となつていた。
2等陸尉から1等陸尉へ 6年 37才 8号俸
1等陸尉から3等陸佐へ 7年 44才 10号俸
3等陸佐から2等陸佐へ 5年 50才 11号俸
2等陸佐の定年は50才である。
別表第2―(一)自衛官俸給表
<省略>
別表第2―(二)自衛官俸給表
<省略>
別表第2―(三)自衛官俸給表
<省略>
別表第2―(四)自衛官俸給表
<省略>
別表3
<省略>
別表4 ボーナス計算表
<省略>
別表5 退職金計算表
国家公務員等退職手当法第4条1項によると下記の通りとなる。
148,900×(125/100×10+137.5/100×10+150/100×10+137.5/100×5)÷2.05=3,495,518
然して今回支給された分を差し引くと
3,495,518-1,078,440=2,417,078(円)となる。